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騎士団長殺しを読んだ。 [本]

村上春樹の騎士団長殺しが手に入ったので読んでみました。ネタバレで感想などを。

騎士団長殺し〈第1部・第2部〉 2冊セット

騎士団長殺し〈第1部・第2部〉 2冊セット

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • メディア: 単行本


イデアとメタファーの二冊で1000ページ強でした。時間が限られているので一か月余りで読まないといけなかったのですが、読むのが遅いので丸々一か月で読みました。普通の読み慣れている人だったら1,2週間で二冊いけそうな感じ。いつものように村上春樹らしく読みやすいものとなっています。

村上春樹が誠実だと思うのは、人が読みやすいようにきっちりと推敲していると思われることです。実際、かなりきっちり推敲はしているという話は聞いていますが、さっくりとした読みやすさとしては天下一品だと思います。だからこそ、海外にもわりによく翻訳されているんだと思います。無駄に変な読みづらい漢字を使ったり、難読漢字なのにフリガナをふらなかったりはないのはテンポを崩さないいい文章だと思います。阿部和重などみたいにそうそう使わない読み方をするのを多用したりはしないのは、機械変換に頼っていない誠実さだと思います。

安易に日本語変換ソフトの選択肢を選ぶべきではありません。読めても書けない程度のものだったらいいのですが、一般的じゃない漢字の使用はやめた方が良い。そんなの書く方が知っていても読む方にとって一般的ではないのであれば害でしかない。前も言ったけど文系インテリの悪い癖で、こういうところでしか悪目立ちしかしないのである。そういう意味では英語を知っているうえで日本語にも優しいというのはバランス感覚がいいのだと思う。というか、一部の人間が一般的ではない漢字や語句をこれ見よがしに使うのがウザい。

そういう意味では、村上春樹は誠実である。誠実さはすんなり物語が入ってくる良いリズムとなる。それを崩してまで自己顕示する意味がどこにあるのだろう。まぁ普通の作家はそんなことはしないのだけれど、一部インテリ崩れがそういう傾向があるのが正直気持ち悪い。そういった気持ち悪さがほとんどないのがいいのだが、あまりにすんなり読めてしまう事にライト感を覚えてしまう人もいるかもしれない。

自分としては、そういうライト感がないと1000ページは短期間に読むのは辛い。多読な人はいいのかもしれないが、そんなに読む人ばかりじゃないことは確かである。まぁ読むのが遅い人は読む事自体あまりしないのかもしれないけれど。ともあれ、最近は本を読まなくてもWebなどの文章を読む事はたくさんあるし、そういう文章は難しくもないし精読して読んでいるわけでもない。


長文を読む事自体はさておき、1000ページ強の騎士団長殺しを読み切った。全体の感想としては、まぁ村上春樹の文章としては中程度の面白さだったかな。すごく面白いわけでもつまらないわけでもない。ただ次々に問題が起こるので退屈しないで読む事はできたかもしれない。

騎士団長なんていうから初めは中世ヨーロッパの話だと思っていたが、しっぽり日本の話であった。ドイツのオーストリア併合のところの下りはヨーロッパなのだが、物語としてもそうだったのかもしれない程度のさわりしかしていなかった。ただ水晶の夜あたりの話は歴史上知っておくべきだったかもしれないなと思いつつ、高校の時の世界史の進捗では第二次大戦までたどり着けなかった。まぁ受験に社会科は使わなかったので、勉強するだけ無駄な時間を浪費するだけだった。というか、何で理系なのに三年の必修に社会科が必修だったのか意味が分からなかったが。受験校だったけどそういう配慮のない事を平気でしてたんだよな。理科の科目は必修じゃなかったのに意味わからん。

アンシュルスに関しては、ヨーロッパの国々の自国史とか周辺諸国の常識として知っていることなんだろうな。アメリカは知らない人も多いかもしれないけど、今でもナチスは毛嫌いする傾向にあるので根深いものとなっているのであろう。ただ物語では噂程度のものとなっていて、それがあけすけに語られているのは軽くなってしまっていたように思える。まぁ免色さんの調査に頼っていたらそういう方向にしかならなかったんだろうけど、もうちょっと何とかなりそうな気はした。

この物語では免色さんが大活躍するというか、彼を中心に回っていくわけだが、ノルウェイの森の永沢さんとは違った完璧超人ぶりだった。ただ永沢さんと違うのは人間としての弱さを残しているところだったと思う。永沢さんみたいな人はいるんかいなとも思ったが、免色さんみたいな完璧に見えて全然不完全な人はいるのかもしれないなと思ったりもした。

今回も井戸の類は出てくるが、今回はそんなに深くはなくより象徴性を明示したものとなっていた。村上春樹の井戸は有名らしくて、解説本にも井戸のマークが出ていた。暗渠的なものも今回でも出てきていて、そこいらは村上春樹的な主人公への洗礼というところなのだろう。

芸術家の事はわからないのだが、その精神性は想像して書いたとしては、少し出来すぎているような気がしている。そこまで意識して描けている人はいないんじゃないかと思うんだよね。というか、言葉で示せてしまっている人はそもそも絵なんか書かないんじゃないかと思ったりもする。でも、芸術家の素養というのはそういう事なのかもしれないなという気はした。

気になったのは、年のわりにはじじむさい趣味をしている気はした。数年して東日本大震災が起こったのだから、自分よりも少し上の世代だと思うのだけれど、それでもちょっと渋すぎる趣味なんじゃないかと。免色さんの年ぐらいだったら分かるのだけれど、どうにもそこは納得いかなかった。そんなにレコードを今更愛している人ってのも少ないと思うし、CDを毛嫌いしている感じがするのもちょっと時代錯誤かなと思ったりはする。

まぁレコードの手間をかけた音楽体験ってのはそれはそれで貴重だとは思うよ。テープで80年代以前の曲を聴いているのもそれはそれでいい。でも、今は音楽配信の時代で、オンタイムでネットからストリーミングしたり、iPhoneやiPodなどのストレージの中に入れて楽しむ時代だ。だから、電話で写真を撮ったり、カメラで電話をかけたりすることに違和感を感じるというのは非常に時代錯誤的であると言わざるを得ない。まぁ自分は使いこなして若者ばりだぜとイキっている爺さんよりかはマシだとは思うが。村上春樹とはいえ、寄る年波には抗いがたいということなんでしょう。でも無理せずに回想とかしている方がずっと自然だと思うんだけど、たぶん無駄に若い方に背伸びすることはなく過ごすんでしょう。

村上春樹は子供をもうけていないと思うのだが(甥はいるけど子供はいないみたいなこと書いていた気がする)、何となくこの作品で本音が出てしまった気はする。やっぱり子供は作っておいた方がいいに越したことはない的な。でも、子供がいたんじゃこれまでのような作品を生むことは難しかったんじゃないかなと思うわけで。少なくともふらりと外国に行って小説を書いて帰ってくるみたいなことができなかったんじゃないかと。何となく村上春樹自体の子供がいないことへの無念さみたいなものが何となく伝わってきているような気がしたんだが気のせいだろうか。

村上作品ではそこそこ少女が登場していたと思うんだが、少年はあまり出てこない。海辺のカフカぐらいなのかな。読んでいる方としても、美少女が登場するのはいいとしても、少年が登場したところでときめくことはない。少なくともショタホモではないのだから、やっぱり少女の方が読んでいてしっくりくることはある。というか、少年なんて基本商品価値はゼロに近い存在だからねぇ。だから面白くないものは出さないというのはあるんだと思う。

今回の少女はツンデレではないのだが、普段は無口で話したいことがあればすごく話すみたいな感じで、割と好感が持てた。というか、自分だけに積極的になってくれる女子がいるということ自体うれしいことじゃないですか。そういう意味では萌えポイントは高い気はしますね。ノルウェイの森の緑やディスレクシアでパイパンの美少女に中出しみたいなのには負けますが。

村上春樹の長編小説は変というかちょっと幻想的観念的なところがあるので、そこのところが好きという人も多いかもしれません。個人的にも普通にはない意識の底みたいなところを狙っている感じが嫌いじゃありません。というか、ノルウェイの森の衝撃が強すぎて、その刷り込みで続けて読んでしまっているところがあるんじゃなかろうかと思うんだよね。若い人でノルウェイの森を読んでいない人がいたとしたら、最近の作品もいいけど先にそっちの方を勧める。あれは若いうちに読んでおくべき作品だと思うから。

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

ノルウェイの森 文庫 全2巻 完結セット (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/03/13
  • メディア: 文庫


結果的には、村上春樹の最高傑作と言っていいと思うし、実際売れているという点でも最高の数字は出していると思う。本人はSexと死しか書いていないみたいなことを言っていた気がするんだけど、仮にそれだけを書こうとしてここまで引き込まれたことは正直言ってなかった。だから、村上春樹初心者は、こんな本よりもノルウェイの森を先に読め、ってことでいいすか。あと初期の短編も少し青臭くてなかなかいいですぞw。

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