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「コンビニ人間」を読んだ。 [本]

村田沙耶香のコンビニ人間を読みました。本屋大賞で9位入賞でそこそこの成績ですね。
 https://www.hontai.or.jp/history/
なかなか面白かったが痛い感じもした。あ、芥川賞受賞作でもあるんだ。だから忘れっぽい自分にも意識に引っかかっていたんだね。

読後感はそんなに良くはない。何か解決するでもない。でも、落ち着くところに落ち着いたんだなと思うところはある。短編と言うほど短くはないけど、サクッと読める長さで、そこそこ心にザクっと来る。これからは少しネタバレも含まれます。

コンビニ人間

コンビニ人間

  • 作者: 村田 沙耶香
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/07/27
  • メディア: 単行本



コンビニ人間 (文春e-book)

コンビニ人間 (文春e-book)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/07/27
  • メディア: Kindle版



ググっていると主人公が発達障害じゃないのかと言われていましたが、こういう世界に対する違和感が発達障害なのかと何となく理解しました。まぁ書かれた本人も発達障害という訳ではないようなので、お話の上での特異的な性格という事なんでしょう。ただ、世の中とずれて悲しい思いをするという人は少なくないと思うので、そういう普遍的な部分を肥大化させて病的にさせたという方向性の方が近いのかもしれないなと。

精神病は普通の人や精神科の医者から見ると違和感が感じられるようですが、普通の人から見れば病気というのは間違いないところでしょう。ただ、それに病名を付けるのにはちょっと難しいところがあるようで、そこのところがグレーゾーンが多い発達障害に結び付けられるんじゃないかと思います。だから、どこか自分にも引っかかるところがあるという人が多いんじゃないかと思います。実際、大人になっても発達障害か調べようとする人も多いみたいだし。

病気であろうとなかろうと、主人公は社会に不適合であることは自分でも理解している通りで、おかしいという部分と言われていることはわかるが、そのものが理解できないという状態なわけで。そういう意味では、後半で出てくる白羽はまた違った意味で社会不適合者であることは間違いないだろう。

というか、白羽はコンビニ人間にさえなれない時点で主人公より劣っている。というか、持論を振り回しすべて社会のせいにして自分の状態も把握できていない、または理解するのを避けているのは、ネットによくいそうな奴だよなとちょっと思った。ただそういうネット民の見た目がキモいかどうかは分からないけど。口汚いのは同じことだろう。

どちらにしても、そういう奇妙な二人が同居生活をしているのも奇妙だ。というか、どっちも収入が少ないという点においてまず破たんする。それなのにコンビニの従業員は祝ってくれている。不幸になるのまっしぐらなの誰にだってわかるのに、同棲していることで評価するってのはちょっとおかしな気がしたが、たぶんそれは本の中の普通の人達との境目を際立たせているのだろう。普通だったら愛想笑いぐらいで終わるんだろうから。

白羽が結婚しないとか仕事をしないとかで世間が介入してくるのが嫌だと言うのだけれども、今どきシングルでいる事自体はわりあい普通になっている。昔ほどお見合いせいだの結婚しろだの言われる状況は減っているのではないだろうか。実際、シングルは増えているし、更に子供をもうける率も政治家がウダウダ言うほど低くなっている。そういう意味では、昔ほど村社会的な婚姻を強制的に勧められるという事も少なくなっているのではないだろうか。昔は問答無用で15で姉やは嫁に行っていたのだ。

白羽が結婚しようとしていたけれども、その前に就職だろというのは誰もがツッコむところだろう。だけど、それもできない人としては嫌なはずの結婚にしがみつくしかないわけで。キモくて口も悪く頭も悪い男と結婚したい女なんてそういない。現状の社会としては、白羽が非正規労働者になったような人はゴロゴロしているんじゃなかろうかと思われる。Hagexさんを刺し殺した奴みたいに、病的な性格で鬱屈している人間はそこそこいるんだろうな。

白羽は本当に嫌な奴なんだけど、自分もそういう所に片足を突っ込んでいるんだろうなと思わなくもない。ただ、悪い状態から目をそらして訳の分からない解決策を夢見ているほど馬鹿じゃない。自分が病気なのは自他共に認めるところだし、そこいらのところは譲歩も無理もあまりしていない。自分が分かっていないのに喚き散らしたりはしたくないものだ。まぁ普通の人は若い頃にそういう状態を切り抜けてきてはいるんだろうけど、間違ってエゴを捨てきれずすんなり通り抜けてきてしまう人はいるんだろうな。


本の内容ね。今まで白羽キモイしか実質言っていないからw。主人公に対する人々として、地元の昔のクラスメイト達がいる。いわゆる勝ち組たちの集団だけれども、かなりずかずかとプライベートに口出しする。本来だったら空気読んである程度躊躇するのが普通なんだろうけど、物語上そこは拒絶に近いダメ出しをする。こっち側に来なよというムリゲーを提案するのだが、自分たちのした苦労と主人公のする苦労とではあまりにも違い過ぎる。

自分の家族たちもどうか普通になってくれと祈らんばかりだが、基本的にそういう人間にできているのだから仕方がないと主人公は堂々としている。堂々としているというか、何をしたらいいか分からないので無駄に不安に思ったりしないというのが正確なのか。自分を完全に理解しているから、白羽を言葉で叩いたり貶めたりはしていない。自分が変だという事も分かっているので、他人にどうこう言う事はしないのは、普通の人より人間ができているというか。

結局、自分のしていることと同じことをして、同じカテゴリの人間として群れる、というのが一般的な人間なのだろう。ただ、そういう社会構造も一般的ではなくなってしまった。そういう意味では、勝ち組の普通の人間たちも主人公と同じ薄氷の上にいるのは変わらないのかもしれない。そもそも人生においてド安定なんて事は少なくとも現代においてはないからだ。

最終的に行きつくところは、何をもって普通なのかという事だろう。それを問い直さないといけないほど現代社会は危ういところはある。それは危ういバランスをもってやっと正常な機能を保っている。ただ機能を保たずとも世界はどんどん進んでいくのだった。

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